tabinokilog

ふじょしの渡世日記。主に旅の記録です。

最後の光線

金沢21世紀美術館に、「雲を測る男」というブロンズ像がある。小ぶりな脚立の上へ立った男が、1メートルほどの定規を空へあてがうように掲げている、という姿だ。 像は美術館の屋根の上へ据えられており、私たちはふと顔を上げたおりに、彼を発見することに…

揺れる

ひがし茶屋街のすぐそばに川がある。目当ての寿司屋が開くまで散歩でもしようと、川沿いの遊歩道に続く階段を上っていると、なにやら靄のようなものが見えてきた。羽虫の群れである。東京で見るような頼りない蚊柱とはスケールが違う。人間を三人は包み込め…

金沢ハマダ旅におけるTIPS

十一月中旬に、金沢へ二泊した。無論、ハマダの旅を心がけてきた。離れて、マスクで、黙りこくって、である。生粋の陰キャである私には、新しい様式でも何でもない、慣れた旅のかたちだ。 そんな旅行の何が楽しいのか、と聞かれることがあり、いつも何を伝え…

来世の夢

旅の準備は、死に支度のようだと思う。 冷蔵庫から痛みやすいものを一掃する。普段は出しっぱなしにしておく鍋をきちんとしまう。長い移動にそなえて、風呂に入っておく。掃除をする。持ち物から、わずかなものだけを選り出して、持っていく。 そんなことを…

花火のない夜

2020年の6月1日は月曜日で、20時から5分間、どこだかわからない場所で、花火が上がるということだった。 そのとき住んでいた家の近くには、花火大会の会場になる場所が二箇所くらいあった。もしも花火がそこから上がるなら、見えはしないにしろ、音が聞こえ…

うpした後どうでもよくなってしまう問題

うpした後、どうでもよくなってしまうのである。 不真面目な二次創作とはいえ、書いて見せる、ということを一応の習慣にしている。書き上がるとpixivへ載せる。あるいは印刷して薄い本にする。別に書きっぱなしにしたっていいのだが、そうしないともったいな…

ふきのとうを剥く(2020年4月14日夜)

ふきのとうの花を買った。大小とりまぜて二十個ほどで、四百円弱。高いのか安いのか、買いつけないものは、どうもよくわからない。 ワールドワイドウェブへ接続して食べ方を検索する。紙面や画面の上で見たことはあるが、手に持つのも、口へ入れるのも初めて…

2020年4月12日夜

ポトフの煮えるのを待ちながら、この文を書いている。 時刻は深夜十二時、ついさきほど、飲みものを買って戻ったところだ。家から数歩のところにある自動販売機で炭酸水を一本買い、買い置きの焼酎を割って飲むのが、ここ数日私の晩酌になっている。 味けな…

いつかクリスマスマーケットでホットワインを

店を出ると冷たい風が身体をつつんだ。氷点下の夜だ。街は氷の粒を散らしたように光っている。 とてもいい気分だった。ウォッカとシャンパンの酔いが身体をあたため、口には焼きりんごの甘い味がのこっていた。このままホテルへ戻るのがなんとなく惜しかった…

夜とはどんなものかしら

長い夜というのは、いったいどんな気持ちがするものだろうと、ずっと考えていた。 百人一首のなかに、長々し夜をひとりかも寝む、という一節がある。かも寝む、というのは、寝ることになるのだろうか、という意味だ。一人寝のさびしさを昼のあいだに憂える的…

移動:空港からホテル

空港を出ると、夜空が雪にかすんでいた。まっ白くて軽い粉雪が、暗い空の奥ふかくからざあっと、一面にふりそそいでいた。降りはじめたばかりらしく、地面や建造物やそこかしこに、まっさらな雪が薄く積もっている。 その上へ足跡をつけながら、人の背を追っ…

移動:東京からサンクトペテルブルク

いいチケットが取れたので、サンクトペテルブルクに行ってきました。(移動)